みなさん、今話題の「Oracle Database 26ai(および23ai)」、もう触ってみましたか? 今回は、データベース界隈で「革命的」と言われている新機能、「AI Vector Search(AIベクトル検索)」について解説します。
「AIとかベクトルとか、数学っぽくて難しそう…」 「Pythonとか書かないとダメなんでしょ?」
そんな不安をお持ちのあなたへ。この記事のテーマは「世界一分かりやすく、丁寧に」です。 実はこの機能、「いつものSQLだけで、データベースが言葉の意味を理解するようになる」魔法のような仕組みなんです。
前半は「徹底解説」、後半はコピペで動かせる「実機検証」の豪華2本立てでお届けします。オラクルエンジニアなら絶対に知っておきたい内容を、余すことなく詰め込みました!
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1. そもそも「AI Vector Search」ってなに?
ひとことで言うと、「キーワード(文字)」の一致ではなく、「意味や文脈」の近さでデータを検索できる機能です。
これまでのデータベース検索と何が違うのか、比較してみましょう。
従来の検索(キーワード検索)
「文字」が合っているかどうかをチェックします。
- やりたいこと: 「美味しい料理」を探したい。
- 検索条件:
WHERE text LIKE '%美味しい%' - 結果: 「美味しいカレー」はヒットしますが、「絶品カレー」や「ほっぺたが落ちるハンバーグ」はヒットしません。(文字が違うから)
AI Vector Search(意味検索)
「意味」が似ているかどうかをチェックします。
- やりたいこと: 「美味しい料理」を探したい。
- 検索条件: AI Vector Searchを使用。
- 結果: 「絶品」「うまい」「最高」「星3つ」など、意味が近いデータが全部ヒットします!
これを実現するために、Oracle Databaseの中にAIの脳(ベクトルを扱う能力) を直接持ち込んだのが、この機能の正体です。
2. 「ベクトル」ってなに?(イメージで理解しよう)
「意味が近い」って、コンピュータはどうやって判断しているのでしょうか? コンピュータは言葉の意味そのものを理解できません。そこで、言葉や画像を数値の列(座標)に変換します。これを「ベクトルデータ」と呼びます。
イメージとしては「巨大な地図」を想像してください。
すべての言葉を、意味の地図上に配置していくイメージです。
- 「リンゴ」と「ミカン」は、地図上で近くに配置されます。(どちらも果物だから)
- 「リンゴ」と「iPhone」も、少し近くにあるかもしれません。(Apple社繋がりで文脈が似ることがあるから)
- 「リンゴ」と「自動車」は、地図の端と端くらい遠くに配置されます。(関係性が薄いから)
AI Vector Searchとは、難しい計算をしているわけではなく、シンプルに「この地図上の距離を測って、近くにあるものを探してくる技術」のことなのです。
3. なぜOracleのAI Vector Searchが選ばれるのか?
世の中には「ベクトル検索専用のデータベース(Pineconeなど)」もあります。しかし、Oracleがこれを標準機能として取り込んだことには3つの巨大なメリットがあります。
① SQLだけでAI検索ができる(学習コストがほぼゼロ)
オラクルエンジニアにとって、これが最大のメリットです。 Pythonや新しいAPIを覚える必要はありません。皆さんが使い慣れた「いつものSQL」に、少し書き足すだけでAI検索ができてしまいます。
-- イメージ(SQLで意味検索と従来の条件検索を同時に行う例)
SELECT 商品名, 説明文
FROM 商品テーブル
WHERE 価格 < 5000 -- 1. 普通のSQL条件(ビジネスロジック)
AND VECTOR_DISTANCE(ベクトル列, :検索ワード) < 0.1; -- 2. AI検索(意味の近さ)
このように、「5000円以下(ビジネスデータ検索)」かつ「高級感があるもの(AI意味検索)」といった複雑な処理を、1つのSQLで高速に実行できるのがOracleの強みです。
② データ移動が不要(セキュリティ最強)
通常、AI検索をするにはデータを外部の専用DBに移す必要がありますが、データを外に出すことはセキュリティリスク(情報漏洩)に繋がります。 Oracleなら、機密個人情報が入っている同じデータベース内で、データを出さずにベクトル化して検索できます。Oracleが長年培ってきた堅牢なセキュリティ(暗号化、アクセス制御)がそのまま使えるので、企業利用に最適です。
③ RAG(ラグ)の構築が圧倒的に楽になる
今、企業がこぞってやりたいのがRAG(検索拡張生成)です。 これは「ChatGPTなどのAIに、社内の極秘マニュアルや顧客データを参照させて、賢く回答させる」仕組みです。
- 社内マニュアルをOracleに入れる。
- Oracle内でベクトル化(数値化)して保存する。
- ユーザーが質問すると、Oracleが「関連するマニュアル」を瞬時に探し出す。
- その情報を生成AIに渡し、正確な回答を作らせる。
この一連の流れが、Oracle Database 1つで完結します。他のツールを組み合わせる必要がないため、開発がめちゃくちゃ楽になります。
4. プロの視点:技術的なポイント
エンジニアとして押さえておくべき技術仕様も整理しておきましょう。
- 新しいデータ型
VECTOR: 従来のNUMBERやVARCHAR2と同じように、VECTORという型が追加されました。ここに数値の配列を格納します。 - 爆速インデックス
Vector Index: データが数億件あっても一瞬で検索できるように、専用のインデックス(HNSWなど)が用意されています。 - RAC / Exadata対応: ここがOracleの真骨頂。ミッションクリティカルなシステムで使われている RAC(可用性構成) や Exadata(超高速マシン) の上で、このAI機能がそのまま動作します。
【実機検証】SQLだけで「味覚検索AI」を作ってみよう
お待たせしました!実際に手を動かしてみましょう。 今回は、難しいAIモデルの連携設定は一旦置いておき、「ベクトルの仕組み」を肌で感じるために、手動でベクトル値を設定して実験します。
テーマは「ランチメニューのレコメンド」です。
前提:ベクトルの定義(3次元)
本当のAIは1000次元以上のベクトルを使いますが、今回は人間にわかりやすく3つの数字(3次元)で味を表現します。
- 1つ目の数字: Sweetness (甘さ: 0.0 〜 1.0)
- 2つ目の数字: Spiciness (辛さ: 0.0 〜 1.0)
- 3つ目の数字: Temperature (温度: 0.0 〜 1.0)
手順1. テーブルの作成 (DDL)
まずはテーブルを作成します。ここで登場するのが VECTOR 型です。 ※SQLは環境を選ばず実行できるよう、コメント以外は英語(シングルバイト)にしています。
-- メニューテーブルの作成
CREATE TABLE menu_items (
id NUMBER PRIMARY KEY,
name VARCHAR2(100),
description VARCHAR2(200),
-- 【重要】ここが新機能!3次元のベクトル列(FLOAT32)を定義
features VECTOR(3, FLOAT32)
);
💡 ポイント解説: VECTOR(3, FLOAT32) とは?
3(次元数): 今回は「甘さ・辛さ・温度」の3つの要素だけを扱うため「3」としていますが、実際のAIモデル(OpenAIのtext-embedding-3-smallなど)を使う場合は、ここに 1536 や 3072 といった大きな数字が入ります。FLOAT32(データ型): ベクトルを構成する数値の精度です。通常はFLOAT32(単精度浮動小数点)を使いますが、データ容量を節約するためにINT8(量子化)を使ってサイズを小さくすることも可能です。
SQL> DESCRIBE menu_items
Name Null? Type
------------------------------- -------- ----------------------------
ID NOT NULL NUMBER
NAME VARCHAR2(100)
DESCRIPTION VARCHAR2(200)
FEATURES VECTOR(3, FLOAT32, DENSE)
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手順2. データの登録 (INSERT)
メニューを「甘さ、辛さ、温度」のルールに従って数値化し、登録します。 これが「データをベクトル化する」という作業のイメージです。
-- 1. Spicy Curry (甘くない、激辛、熱い) -> [0.1, 0.9, 0.9]
INSERT INTO menu_items VALUES (
1, 'Spicy Curry', 'Authentic curry with rich spices', '[0.1, 0.9, 0.9]'
);
-- 2. Shortcake (すごく甘い、辛くない、冷たい) -> [0.9, 0.1, 0.2]
INSERT INTO menu_items VALUES (
2, 'Shortcake', 'Sweet cake with strawberries', '[0.9, 0.1, 0.2]'
);
-- 3. Mapo Tofu (甘くない、辛い、熱い) -> [0.1, 0.8, 0.9]
INSERT INTO menu_items VALUES (
3, 'Mapo Tofu', 'Sichuan style spicy tofu', '[0.1, 0.8, 0.9]'
);
-- 4. Vanilla Ice Cream (甘い、辛くない、すごく冷たい) -> [0.9, 0.0, 0.0]
INSERT INTO menu_items VALUES (
4, 'Vanilla Ice Cream', 'Rich milk flavor', '[0.9, 0.0, 0.0]'
);
COMMIT;
SQL> SELECT * FROM menu_items;
ID NAME DESCRIPTION FEATURES
---------- -------------------- ----------------------------------- ----------------------------------------------------------------------
1 Spicy Curry Authentic curry with rich spices [1.00000001E-001,8.99999976E-001,8.99999976E-001]
2 Shortcake Sweet cake with strawberries [8.99999976E-001,1.00000001E-001,2.00000003E-001]
3 Mapo Tofu Sichuan style spicy tofu [1.00000001E-001,8.00000012E-001,8.99999976E-001]
4 Vanilla Ice Cream Rich milk flavor [8.99999976E-001,0,0]
手順3. いざ検索! (SELECT)
ここからが本番です。 「今日はとにかく辛くて熱いものが食べたい(甘さは不要)」という気分のとき、私の頭の中にある欲求ベクトルは '[0.0, 1.0, 1.0]' です。
これに近いメニューを探してみましょう。
注意: VECTOR_DISTANCE はデフォルトで「コサイン距離」を計算することがありますが、ここでは「地図上の距離(ユークリッド距離)」を計算するために、明示的に EUCLIDEAN を指定します。
-- 「辛くて熱いもの」に近い順に検索 (甘さ=0, 辛さ=1, 温度=1)
SELECT
name,
description,
-- VECTOR_DISTANCE関数:2つのベクトルの「距離」を計算します。
-- 第3引数に'EUCLIDEAN'を指定して、空間上の直線距離を計算します。
ROUND(VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN), 3) AS distance
FROM
menu_items
ORDER BY
distance ASC; -- 距離が小さい(似ている)順に並べ替え
💡 ポイント解説: ROUND(VECTOR_DISTANCE(..., EUCLIDEAN), 3) の意味 この一行がAI検索の心臓部です。
VECTOR_DISTANCE: 「メニューの特徴」と「検索したい特徴(辛くて熱い)」の間の距離を計算します。EUCLIDEAN: 距離の計算方法を指定しています。今回は空間上の直線距離(ユークリッド距離)を使います。(デフォルトだとCOSINE距離などが使われる場合があります)ROUND(..., 3): 計算された距離は細かい小数になるため、人間が見やすいように小数第3位で四捨五入しています。
実行結果イメージ
| NAME | DESCRIPTION | DISTANCE | 解説 |
|---|---|---|---|
| Spicy Curry | Authentic curry… | 0.173 | 最も近い!(辛い・熱い) |
| Mapo Tofu | Sichuan style… | 0.245 | かなり近い!(辛い・熱い) |
| Shortcake | Sweet cake… | 1.503 | 遠い (甘い・冷たい) |
| Vanilla Ice Cream | Rich milk flavor… | 1.676 | 最も遠い (真逆の性質) |
大成功です! 「Curry」や「Tofu」といったキーワードを指定したわけではないのに、「辛くて熱い」という私の意図(ベクトル)に近いメニューが上位に来ました。
SQL> SELECT
2 name,
3 description,
4 ROUND(VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN), 3) AS distance
5 FROM
6 menu_items
7 ORDER BY
8 distance ASC;
NAME DESCRIPTION DISTANCE
-------------------- ----------------------------------- ----------
Spicy Curry Authentic curry with rich spices .173
Mapo Tofu Sichuan style spicy tofu .245
Shortcake Sweet cake with strawberries 1.503
Vanilla Ice Cream Rich milk flavor 1.676
応用:SQLならではのフィルタリング
さらに、Oracle Databaseでやる意味を示す強力な例がこれです。 従来のWHERE句と組み合わせてみましょう。
「辛いものがいいけど、今日はカレーの気分じゃない(カレーを除外)」
SELECT name, description
FROM menu_items
WHERE name NOT LIKE '%Curry%' -- 従来のSQL条件 (キーワード除外)
AND VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN) < 0.5 -- ベクトル検索条件(距離0.5未満のみ)
ORDER BY VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN);
結果:Mapo Tofu
このように、「ビジネスロジックによる絞り込み」と「AIによる曖昧検索」を1つのSQLでスムーズに実行できるのが、Oracle AI Vector Searchの真骨頂です。
SQL> SELECT name, description
2 FROM menu_items
3 WHERE name NOT LIKE '%Curry%'
4 AND VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN) < 0.5
5 ORDER BY VECTOR_DISTANCE(features, '[0.0, 1.0, 1.0]', EUCLIDEAN);
NAME DESCRIPTION
-------------------- -----------------------------------
Mapo Tofu Sichuan style spicy tofu
よくある質問 (FAQ)
ここまで読んで、「もっと詳しく知りたい!」と思った方のためのQ&Aコーナーです。
Q1. 今使っているテーブルのデータもAI検索できますか? A. はい、できます! 既存のテーブルに VECTOR 型の列を追加(ALTER TABLE)して、既存データのテキストをベクトル化してUPDATEするだけでAI検索が可能になります。データを別システムに移行する必要はありません。
Q2. 日本語の検索もちゃんとできますか? A. もちろん可能です! ベクトル化を行うAIモデル(Embeddingモデル)が日本語に対応していれば問題ありません。Oracle Database自体はベクトルの数値データを扱うだけなので、言語には依存しません。
Q3. 何億件ものデータがあっても遅くなりませんか? A. ご安心ください。 Vector Index という専用のインデックスを作成することで、大規模なデータでも爆速で検索できます。これはOracleが長年得意としてきたインデックス技術の応用です。
Q4. 無料で試せますか? A. はい! 「Oracle Database 23ai Free」という無料の開発者向けエディションで、このAI Vector Search機能がフルに使えます。DockerコンテナやVirtualBoxなどで簡単に立ち上げられます。
まとめ
いかがでしたか? Oracle 26aiのAI Vector Searchは、まさに「これまでの堅牢なデータベース技術」と「最新のAI技術」を融合させた機能です。
難しそうに見えても、やることはシンプルです。
- テーブルに
VECTOR型のカラムを作る。 - データを入れる。
VECTOR_DISTANCEで検索する。
「別途AI専用のデータベースを立てる必要はなく、使い慣れたOracleだけで、安全かつ高速にAIアプリが作れる」 これが、我々オラクルエンジニアが顧客や社内に提案できる最大の価値になります。
ぜひ皆さんも、まずはこのSQLから試してみてくださいね!
[参考]
Oracle AI Vector Search | Oracle 日本
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