Oracleデータベースにおけるリスナー接続のフェイルオーバーとロードバランシング

Oracle Master Silver

Oracleデータベースの信頼性とパフォーマンスを向上させるためには、リスナー接続でのフェイルオーバーとロードバランシングの適切な設定が不可欠です。本記事では、その基本概念から具体的な設定方法、運用上の注意点までを詳しく解説します。

1. はじめに

Oracleデータベースは多くの企業でミッションクリティカルなシステムとして利用されています。そのため、データベースの高可用性とパフォーマンスは非常に重要です。リスナー接続におけるフェイルオーバーとロードバランシングの適切な設定は、これらを実現するための鍵となります。


2. フェイルオーバーの基本概念

フェイルオーバーとは

フェイルオーバーは、システムの一部が障害を起こした際に、自動的に別のシステムに切り替えてサービスを継続させる機能です。Oracleデータベースでは、接続先のデータベースやネットワークコンポーネントに障害が発生した場合に、クライアントが別のデータベースインスタンスに接続を切り替えることで高可用性を実現します。

フェイルオーバーの種類

  • 接続時フェイルオーバー:新規接続時に障害が発生した場合、別の接続先に自動的に切り替える。
  • セッションフェイルオーバー:既存のセッションが切断された場合、自動的に再接続する。
  • トランザクションフェイルオーバー:トランザクション中に障害が発生した場合、トランザクションを再実行する。

3. ロードバランシングの基本概念

ロードバランシングとは

ロードバランシングは、複数のサーバーやインスタンス間でクライアントからの接続や負荷を均等に分散させる機能です。これにより、特定のサーバーに負荷が集中するのを防ぎ、全体的なパフォーマンスを向上させます。

ロードバランシングの方式

  • クライアント側ロードバランシング:クライアントの設定により、接続先をランダムまたは特定のアルゴリズムで選択する。
  • サーバー側ロードバランシング:サーバー(リスナー)が接続要求を受け取り、適切なインスタンスに振り分ける。

4. TNS設定によるフェイルオーバーの実装

Oracleデータベースの接続情報は、tnsnames.oraファイルに定義されます。ここでフェイルオーバーを設定することで、接続時の高可用性を実現できます。

基本的なTNS設定

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host1)(PORT = 1521))
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
)
)

フェイルオーバー設定の詳細

フェイルオーバーを有効にするためには、(FAILOVER=ON)を設定します。

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(FAILOVER = ON)
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host1)(PORT = 1521)) ★
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host2)(PORT = 1521)) ★
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
)
)
  • ポイント
    • ADDRESS_LIST内に複数のADDRESSを定義し、フェイルオーバー先を指定します。
    • FAILOVER=ONにより、プライマリ接続が失敗した場合に次の接続先に自動で切り替わります。

5. TNS設定によるロードバランシングの実装

ロードバランシングを有効にするためには、(LOAD_BALANCE=ON)を設定します。

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(LOAD_BALANCE = ON)
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host1)(PORT = 1521))
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host2)(PORT = 1522))
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
)
)
  • ポイント
    • LOAD_BALANCE=ONにより、クライアントは接続ごとにランダムにサーバーを選択します。

設定上の注意点

  • フェイルオーバーとロードバランシングを同時に使用する場合、設定の順序や組み合わせに注意が必要です。
  • サーバー側の設定やリソース状況も考慮して、負荷が均等になるように調整します。

6. フェイルオーバーとロードバランシングの組み合わせ

両機能を組み合わせることで、接続時の高可用性とパフォーマンス向上を同時に実現できます。

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(LOAD_BALANCE = ON)
(FAILOVER = ON)
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host1)(PORT = 1521))
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host2)(PORT = 1521))
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
)
)
  • 動作
    • クライアントは接続時にランダムにサーバーを選択します。
    • 選択したサーバーが利用できない場合、次のサーバーに接続を試みます。

複合設定のベストプラクティス

  • LOAD_BALANCEFAILOVERの両方をONに設定。
  • サーバーのリソースやネットワーク状況を定期的に監視し、負荷分散が適切に行われているか確認。

7. TAF(Transparent Application Failover)の活用

TAFの概要

TAFは、既存のセッションが切断された場合に自動的に再接続し、処理を継続する機能です。セッションフェイルオーバーとも呼ばれ、接続時フェイルオーバーよりも高い可用性を提供します。

TAFの設定方法と注意点

tnsnames.oraファイルに以下の設定を追加します。

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host1)(PORT = 1521))
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = host2)(PORT = 1521))
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
(FAILOVER_MODE =
(TYPE = SELECT)
(METHOD = BASIC)
(RETRIES = 180)
(DELAY = 5)
)
)
)
  • パラメータの説明
    • TYPESESSIONまたはSELECTSELECTを指定すると、フェッチ中のクエリを再実行します。
    • METHODBASICまたはPRECONNECTPRECONNECTは事前にセカンダリ接続を確立しますが、リソースを多く消費します。
    • RETRIES:再接続の試行回数。
    • DELAY:再接続の試行間隔(秒)。
  • 注意点
    • TAFはDML操作(INSERTUPDATEDELETE)の再実行は行いません。
    • アプリケーション側での対応が必要な場合があります。

8. 実践的な設定例

シングルインスタンス環境での設定

単一のデータベースインスタンスでも、別のホストにスタンバイ環境を構築することでフェイルオーバーを実現できます。

RAC(Real Application Clusters)環境での設定

RAC環境では、複数のインスタンスが同一のデータベースを共有します。以下の設定でロードバランシングとフェイルオーバーを効率的に行えます。

ORCL =
(DESCRIPTION =
(ADDRESS_LIST =
(LOAD_BALANCE = ON)
(FAILOVER = ON)
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = node1)(PORT = 1521))
(ADDRESS = (PROTOCOL = TCP)(HOST = node2)(PORT = 1521))
)
(CONNECT_DATA =
(SERVICE_NAME = orcl)
(FAILOVER_MODE =
(TYPE = SELECT)
(METHOD = BASIC)
(RETRIES = 5)
(DELAY = 10)
)
)
)

9. トラブルシューティング

よくある問題と解決策

  • 接続がフェイルオーバーしない
    • FAILOVER=ONの設定漏れや、ホスト名・ポート番号の誤りを確認。
  • ロードバランシングが機能しない
    • LOAD_BALANCE=ONが正しく設定されているか確認。
    • サーバー側のリスナーが稼働しているかチェック。
  • TAFが動作しない
    • FAILOVER_MODEのパラメータが正しいか確認。
    • サービス名が正しく設定されているか確認。

ログの確認方法

  • クライアント側のログ:sqlnet.log
  • サーバー側のログ:listener.logalert.log

10. 運用上の考慮事項

パフォーマンスモニタリング

  • 負荷分散の効果を定期的にモニタリングし、必要に応じて設定を調整。
  • Oracle Enterprise ManagerStatspackなどのツールを活用。

定期的な設定レビュー

  • システムの拡張や変更に合わせて、tnsnames.oralistener.oraの設定を見直し。
  • フェイルオーバー先やロードバランシングの対象サーバーを最新の状態に保つ。

11. まとめ

リスナー接続におけるフェイルオーバーとロードバランシングの適切な設定は、Oracleデータベースの高可用性とパフォーマンス向上に直結します。本記事で解説した設定方法や注意点を参考に、システムの要件に合わせた最適な構成を構築してください。

[参考]
Database Net Servicesリファレンス – 6 tnsnames.oraファイル内のローカル・ネーミング・パラメータ

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